2月3日、午後8時。 仕事を終えてオフィスを出ると、冷たい風が頬を刺します。 スマートフォンの通知には「今日は節分です」の文字。
子供の頃、父が鬼のお面を被り、家中で豆を撒き散らして、母に「掃除が大変!」と怒られていたあの賑やかな夜を思い出します。 しかし、今の私にあるのは、都心のマンションの静かな部屋と、少しの疲労感だけ。
「これからスーパーに行って、恵方巻を買う元気はないな」 「ましてや、豆まきをして部屋を散らかすなんて論外」
そう思いながらも、季節の行事を完全にスルーしてしまうことに、ほんの少しの罪悪感と寂しさを感じるのも事実です。 旧暦では、節分の翌日が「立春」。つまり今日は、大晦日のような節目の一日。 自分の中のモヤモヤした「鬼」を追い出して、新しい春をスッキリと迎えたい。
そう思い立った私が向かったのは、帰り道のコンビニエンスストアでした。 そこには、現代のライフスタイルに最適化された、素晴らしい「節分セット」が待っていたのです。
「予約なし」で楽しむ、手のひらサイズの恵方巻
コンビニの棚には、立派な予約限定の恵方巻のポスターが貼ってありますが、当日ふらりと立ち寄った私たちが狙うのはそこではありません。
おにぎり・お寿司コーナーにある「手巻き寿司」です。 納豆巻き、ネギトロ巻き、サラダ巻き。 一気に一本丸かじりする伝統的な太巻きも素敵ですが、好きな味を2、3本選んでカゴに入れる。これなら数百円で済みますし、食品ロスも出ません。
今年の恵方をスマートフォンのコンパスアプリで確認し、静かに一本、願いを込めて食べる。 豪華な具材が入っていなくても、「縁起を担いで食べた」という事実が、心に小さな達成感を与えてくれます。
掃除機いらずの「個包装豆まき」
次に向かったのはおつまみコーナー。 ここで探すのは、大袋入りの炒り豆……ではなく、「小袋入りの豆菓子」や「大豆スナック」です。
昔ながらの「バラ撒き」は、現代のマンション暮らしにはハードルが高すぎます。 家具の隙間に入り込んだ豆を数ヶ月後に発見する悲劇は避けたいもの。
だから私は、小袋に入ったままの状態で「鬼は外、福は内」と、パラリとテーブルに撒く(置く)ことにしています。 これなら衛生的で、掃除も0秒。 あるいは、大豆を使ったプロテインバーやスナック菓子を選んで、「体の中から鬼退治(タンパク質摂取)」とこじつけるのも、現代版ならではの楽しみ方です。
惣菜コーナーで見つける「魔除けのイワシ」
節分には、鬼が嫌う匂いのするイワシを飾ったり食べたりする風習(柊鰯)があります。 魚焼きグリルを洗いたくない私が選ぶのは、缶詰コーナーの「オイルサーディン」や、惣菜コーナーにある「イワシの梅煮」です。
温めるだけで立派な一品になり、お酒のアテにもご飯のおかずにもなる。 DHAも豊富で、疲れた脳にも優しい。 古臭いと思っていた風習が、コンビニ食材を通して、今の自分の体をいたわるメニューに早変わりします。
「形」よりも「区切り」を意識する夜
コンビニの袋を提げて帰宅し、買ってきた手巻き寿司と豆をつまみながら、好きなお酒を少しだけ飲む。 所要時間は食事を含めても30分足らずの、ささやかな「行事」です。
けれど、不思議なことに、これだけで心の中がスッと整うのを感じます。
「悪いものは全部追い出した。明日は立春、新しい季節の始まりだ」
そう自分に言い聞かせる時間を持つことこそが、節分の本質なのかもしれません。 豪華な準備はいりません。 今夜は帰り道のコンビニで、小さな「春の準備」をして帰りませんか?

