金曜日の夜、疲れ切って帰宅し、ソファに倒れ込む。 スマートフォンの画面を何気なくスクロールしていると、SNSには「丁寧な暮らし」を切り取った写真が溢れています。
立派な七段飾りの雛人形、手作りの豪華なおせち料理、庭で採れた梅で作る梅酒。 素敵だな、と思うと同時に、心のどこかで「今の私には無理だ」と蓋をしてしまうこと、ありませんか?
都心のマンション暮らし、共働きで多忙な毎日、収納スペースの限界。 かつて実家で親がしてくれたような「ちゃんとした行事」を再現しようとすると、それは楽しみではなく、ただの「タスク」になってしまいます。
でも、もし年中行事が「頑張らなくていいもの」だとしたらどうでしょう。 今回は、忙しい30代の私たちが、現代のライフスタイルに合わせて軽やかに楽しむ「現代版・年中行事」の取り入れ方についてお話しします。
「形」を捨てて「心」を残す、マンション暮らしの五節句
まず私が手放したのは、「行事=飾り付けや準備が大変」という思い込みです。 五節句(人日、上巳、端午、七夕、重陽)は、本来「邪気を払い、健康を願う」ための節目。形にとらわれすぎて疲れてしまっては本末転倒です。
例えば、3月3日の「上巳の節句(桃の節句)」。 以前の私は「お雛様を出さなきゃ」というプレッシャーを感じていましたが、今はマンションの玄関棚に、ハガキサイズの**「立雛(たちびな)のポストカード」**を一枚飾るだけに変えました。 そして、帰宅途中の花屋で桃の花をたった一輪買い、小さな一輪挿しに生ける。 これだけで、無機質だった部屋に春の風が吹いたような気がします。食事も、デパ地下の華やかな「手まり寿司」を買ってくれば、それで十分なお祝いです。

5月5日の「端午の節句」も同様です。 大きな鯉のぼりは飾れませんが、季節の手ぬぐいをタペストリーとして壁に掛けるだけで、部屋の雰囲気は一変します。 そして何よりおすすめなのが、スーパーで数百円で売っている「菖蒲(しょうぶ)」を買って帰り、お風呂に放り込む「菖蒲湯」。 準備時間はゼロ。でも、湯船に広がる爽やかな香りに包まれると、「ああ、今年も夏が来るな」と、季節の移ろいを肌で感じてリフレッシュできるのです。
多忙な日々に「句読点」を打つ、食べる二十四節気
「二十四節気」なんて言葉を聞くと、なんだか難しそうに感じるかもしれません。 でも、これは昔の人が季節を知るために作ったカレンダーのようなもの。忙しくて日々が飛ぶように過ぎていく現代人にこそ、必要な「時間の句読点」です。
私が実践しているのは、**「その日の夕食に、旬の食材を一つだけ取り入れる」**というルールです。
例えば、12月の「冬至」。 「運盛り」といって、「ん」のつく食べ物を食べると運気が上がると言われています。 かぼちゃ(なんきん)、うどん、にんじん。 これなら、コンビニやスーパーの惣菜コーナーで「かぼちゃの煮物」を一品追加するだけでミッション完了です。

春分の頃なら、菜の花のお浸しを一品添える。 立秋の頃なら、帰り道に見上げた空の高さに気づいてみる。
「今日は冬至だから、かぼちゃを食べようか」 そんな小さな会話が食卓にあるだけで、ただの平日が少し特別なものに変わります。行事のために時間を割くのではなく、**「毎日の食事選びの基準を行事にする」**だけでいいのです。
小さな季節感がもたらす、心の余白
こうして「現代版・年中行事」を取り入れるようになってから、不思議と心に余裕が生まれました。
完璧を目指さず、コンビニや100円ショップ、時にはデジタル画像さえも活用して、今の自分の生活サイズに落とし込む。 それは「手抜き」ではなく、自分のライフスタイルを肯定しながら文化を楽しむ、大人の知恵です。
季節の変わり目にふと立ち止まり、旬のものを味わい、家族や自分の健康を願う。 その一瞬の「心の余白」こそが、私たちを次の季節へと健やかに運んでくれるお守りになるのかもしれません。
次の週末は、スーパーの入り口で季節の野菜を手に取ってみませんか? そこから、あなたの新しい「年中行事」が始まります。

